2025/06/21
知らないと危険!鉄筋コンクリート建築に潜むアスベストの基礎知識

鉄筋コンクリート(RC)造の建物は、その使いやすさや耐火性から、1950年代以降、長年にわたって住宅やビル、公共施設に多く採用されてきました。 しかし、 アスベストは吸い込むことで健康被害を引き起こすリスクがあるため、特に解体や改修時には注意が必要です。今回は、鉄筋コンクリート建築におけるアスベストの使用実態と、その危険性、そして知っておくべき基礎知識をわかりやすく解説していきたいと思います。
鉄筋コンクリート建物に使われるアスベストの種類と特徴
鉄筋コンクリート(RC)建築において、アスベストは以下のような建材に多く使用されてきました
・断熱材:熱の伝わりを抑えるために使用され、建物の冷暖房効率を高めることで、省エネルギーに貢献しています。
・耐火被覆材:火災時の延焼を防ぐために、鉄骨などの構造材として使用されます。
・外壁パネル:建物の外観を形づくるとともに、風雨や温度変化といった外部環境からの建物を守ります。
・吹付け材:構造体への施工が容易で、複雑な形状にも対応しやすいのが特徴です。
これらの建材に使用されてきたアスベストの種類を以下に紹介します:
・クリソタイル(白石綿):耐熱性や絶縁性に優れ、加工が容易なため最も多くの建材に使用されました。
・アモサイト(茶石綿):耐熱性が高く、主に断熱材や耐火被覆材として使用されました。
・クロシドライト(青石綿):非常に高い耐熱性を持ち、主に産業用途に使用されました。
アスベストは微細な繊維状の鉱物であり、飛散すると深刻な呼吸器疾患を引き起こすリスクがあります。特に法人が管理する建物では、以下の点において注意をしましょう
■健康リスクの認識
アスベストの繊維は非常に細かく、空気中に浮遊して吸い込むと肺の奥深くに入り込みます。これにより、中皮腫、肺がん、石綿肺といった重篤な呼吸器疾患を発症するリスクがあります。特に老朽化している建物や改修時において飛散する恐れが高いので注意が必要です。
■法令遵守
2022年4月以降、法改正により一定規模以上の解体・改修工事では事前調査の結果報告が義務化されており、2023年10月からは有資格者による調査が必須となりました。また、アスベストを含む建材の撤去・処理には厳格な基準があり、違反すれば法人として罰則や行政指導の対象となる可能性もあるため注意しましょう。
■適切な調査と対策
建物にアスベストが使用されているかを調べるためには、「建築物石綿含有建材調査者」などの専門資格を持った技術者による現地調査が必要です。万が一、アスベストが見つかった場合は、飛散防止のための封じ込め処理や、必要に応じて法令に則った除去工事を行います。いずれも労働安全衛生法・大気汚染防止法などに準拠した対応が求められるため、専門業者への委託が不可欠です。
石綿はいずれも、飛散時には危険性を伴います。中でも特にアモサイトやクロシドライトは発がん性が強いため、これらを含む可能性がある場合は厳重な管理と調査が必要となります。クリソタイルも例外ではなく、含有が疑われる場合には、適切な対応と慎重な取り扱いをしましょう。石綿の種類に関わらず、建築材料を取り扱う際にはその特性を十分に理解し、適切な対応を行うことが法人にとって重要となっています。
建築年代からわかるアスベスト使用の可能性
アスベスト使用の実態は建築年代によって大きく異なります。例えば、1970年代から1980年代半ばでは、多くの鉄筋コンクリート・鉄骨建築物においてアスベスト含有建材が使用されていました。特に、1987年の使用全面禁止以前に建てられた建物では、断熱材や耐火被覆、吹付け材などにアスベストが存在する可能性が極めて高いです。
一方で1990年代以降においては、アスベストの使用はほぼなくなっています。ただし、リフォームや増改築の際に旧材が使われている場合もあるため、建築年代だけで油断せず、適切な調査を行う必要があります。
法人の管理者は、築年数だけでなく改修履歴や使用資材の記録を精査し、潜在リスクを把握することが求められます。
法人が知っておくべきアスベスト調査の重要性と法的義務
アスベスト調査が必要なケースとは?
鉄筋コンクリート建築の解体や改修工事を行う際、以下のポイントに該当する場合は法令に基づいて、必ずアスベスト調査を実施しなければなりません:
■ 対象となる建物の築年数(1975年~1987年ごろ)
この期間に建てられた建物では、吹付け材や断熱材などにアスベストが高確率で使用されているため、調査が必要です。特に、屋根裏・天井裏・外壁材・機械室などに多く使われていた事例が見られています。
■ 一定規模以上の工事を伴う場合
以下のような工事に当てはまる場合には、アスベストの有無に関わらず事前調査と報告が義務付けられています。
・解体工事:建築物の延べ床面積が80㎡以上
・改修工事:請負金額が100万円以上
・建築物全部の除去
労働安全衛生法や環境規制のポイント
アスベストを含む建材の取り扱いには、労働安全衛生法や環境関連法令に基づく厳格な規定が設けられており、法人には高いレベルの法令遵守が要求されます。
まず、解体や改修工事の前には、建物にアスベストが含まれているかを調査することが法律で義務付けられています。 また、アスベストが確認された場合には、飛散を防ぐための作業計画の作成や、作業員への安全教育・訓練も義務とされています。
さらに、アスベストの除去後に発生する廃棄物についても、環境基本法や廃棄物処理法に基づき、適切に処理・処分することが求められます。 不適切に処理することは、周囲の環境に深刻な影響を与えるだけでなく、法人として重大な法的責任を負うことになります。
そのため、アスベスト対応においては、調査から除去、最終的な廃棄処理まで一貫した管理体制を構築し、関連法令に準拠した運用を徹底することが法人の責任です。単に現場での作業を適切に行うだけではなく、組織全体で法令遵守を徹底する姿勢が重要なのです。
調査義務の履行が企業のリスクマネジメントに直結
調査義務を適切に履行しない場合、法人には以下のようなリスクが想定されます
・労働災害や環境汚染のリスク増大
労働者や周辺住民の健康に重大な影響を与えうる
・法的制裁
行政処分や罰則、損害賠償請求の対象となる場合
・企業イメージの悪化
社会的信用を失い、事業継続に支障をきたすリスク
これらのリスク回避のため、計画的で確実なアスベスト調査の実施は企業のリスクマネジメント戦略の一部です。
鉄筋コンクリート建物のアスベスト調査の具体的な方法
現地調査と資料確認の流れ
アスベスト調査は、効率的かつ確実に行うために、以下のステップで実施されます。
1. 設計図書・施工記録の確認
・ 建物の設計図書、施工記録、仕様書などを詳細に調査
・ アスベスト含有の可能性がある建材や箇所を特定し、調査の重点箇所を絞り込みます。
2. 目視による現地調査
・ 実際に建物を訪問し、外観や内装を目視点検
・ 劣化・破損の有無や粉じんが発生しやすい場所を重点的に確認します。
3. 調査計画の策定
・ 収集した資料と現地調査の結果を基に、詳細な調査計画を作成
・ 必要な範囲で効率的にサンプリング調査を進める体制を整えます
専門業者によるサンプリングと分析
以上のような調査計画に基づき、専門のアスベスト調査業者は以下の手順で調査を進めることになります。
1. サンプリング
・ 疑わしい箇所から試料を慎重に採取。
・ 専門的な安全対策を講じたうえで作業を行い、周囲への飛散リスクを最小限に抑えます。
2. 分析
・ 採取した試料を分析機関に提出。
・ 電子顕微鏡検査や化学分析を行い、アスベストの種類・含有率を正確に判定します。
3. 報告書作成
・ 分析結果を詳細にまとめた報告書を作成
・ 解体・改修工事の安全対策計画に活用できるよう、わかりやすく記載します。
アスベスト検出後の対策と安全管理のポイント
除去工事、封じ込め工事の違いと選び方
アスベストが検出された際に検討すべき主な対策は以下の2種類です。
■ 除去工事
アスベストが含まれている建材を、物理的に建物から取り除く対応方法です。アスベストが完全に撤去されることで、飛散による二次被害や将来的な管理負担が不要となり、健康被害のリスクを根本から取り除ける点で優れています。ただし、除去工事には高い安全基準が求められ、工事費用や期間がかかる傾向があるため、事前に十分な計画と予算確保が不可欠です。
■ 封じ込め工事
アスベストを含む建材が飛散しないように、表面を密閉・補強して覆う方法です。この方法は、比較的コストを抑えながら、短期間で安全性を確保できるという点がメリットです。建物の使用を継続しながら対策を講じることも可能となります。しかしながら、封じ込め工事はあくまで一時的な対応にとどまるため、長期的にはアスベストの完全除去が望ましいとされています。特に建物の老朽化や再改修のタイミングでは、再び飛散リスクが生じる可能性があるため、将来を見据えた管理が必要です。
選択にあたっては以下の点を総合的に考慮してください。
・建物の使用状況や重要度
・アスベストの劣化状態
・予算と工期の制約
・法令・助成制度の要件
工事費用の目安と助成金の活用
アスベスト対策にかかる工事費用と、その費用に関連するポイントについては、以下の通りです。
・費用変動要因
建物の規模、アスベスト含有量、施工内容、現場の状況などによって大きく変動します。一般的に除去工事の方が費用は高額になる傾向があります。
・助成金・補助金の活用
国や地方自治体の助成制度を利用して費用負担を軽減可能です。制度ごとに要件や申請期限が異なるため、詳細を事前に確認し適切な申請を行うことが重要です。
・計画的な資金調達
助成金を踏まえた資金計画を早期に策定し、工事スケジュールに反映させることが望ましいです。
法人はこれらを踏まえ、安全かつ効率的な工事実施に向けて準備を進める必要があります。
信頼できるアスベスト調査業者の選び方と比較ポイント
業者選定時のチェックリスト
信頼できるアスベスト調査業者を選ぶ際に、注意すべき点について4つお伝えします。
①資格・許認可の有無
・石綿作業主任者や環境測定分析技術者などの関連資格保有者が在籍しているか。
・労働安全衛生法などの関連法令に準拠した許認可を有しているか。
②調査実績と経験
・過去の調査件数や法人顧客の実績。
・報告書の質や内容のわかりやすさ。
③フォロー体制の充実度
・調査後の相談対応や除去工事への連携がスムーズか。
・問い合わせへのレスポンスの速さと丁寧さ。
④信頼性と評判
・他の法人顧客からの評価や口コミ情報。
・長期的な取引実績の有無。
法人はこれらを総合的に判断し、安心して依頼できる業者を選定することが重要です。
見積もり取得と比較のコツ
複数の業者から見積もりを取得し、以下の点を詳細に比較しましょう。
調査範囲と方法
・ 調査対象の建材や箇所が網羅されているか。
・ 使用する調査技術や方法の具体性。
報告書の内容
・ 結果の詳細度やわかりやすさ。
・ 法令対応に必要な情報が含まれているか。
料金体系の明確さ
・ 基本料金と追加料金の内訳が明確か。
・ 不明瞭な費用がないか。
対応の質
・ 問い合わせ時のレスポンスや説明の丁寧さ。
・ 契約前後のサポート体制。
注意点として、料金が極端に安い場合は調査の質が担保されないリスクがあるため、内容を慎重に確認してください。
これらを踏まえ、費用対効果の高い業者を選定し、安心して調査を進められる体制を整えましょう。
建築の際の安全確保に向けて
鉄筋コンクリート建築におけるアスベスト問題は、過去の建築実態から見ても法人にとって依然として非常に重要かつ緊急性の高い課題となっています。これまで、多くの建物で断熱材や耐火被覆、吹付け材にアスベストが使用されてきたため、これらの建築物を適切に管理しない場合、作業員や周辺住民の健康被害、さらには法的トラブルを招くリスクが極めて高い状況にあります。特に1987年以前に建築された建物では、アスベストの使用が極めて一般的であったため、慎重な調査と対策が不可欠です。
法人が安全で法令に準拠した管理体制を構築するためには、まず正確で網羅的なアスベスト調査を実施し、リスクの有無やその程度を明確に把握することが最優先事項となります。この調査は専門の有資格業者に依頼し、設計資料の詳細な確認、現地での目視点検、さらに精密なサンプリングと分析を含む複合的なプロセスで進められます。こうした調査結果を踏まえ、除去工事や封じ込め工事といった適切な安全対策を計画し、工事の安全管理を徹底することが法人の重要な責務です。これにより、作業員や周辺住民の健康被害リスクを最小限に抑え、さらに法令違反による行政処分や損害賠償リスクも効果的に回避可能となります。
また、費用面の課題に対しても、国や地方自治体が提供する助成金・補助金制度を積極的に活用することで負担を軽減できます。助成金の要件や申請期限は制度ごとに異なるため、早期に制度の詳細を把握し、適切な申請手続きを行うことが重要です。さらに、複数の業者から見積もりを取得し、調査内容や料金体系、報告書の質などを比較検討することで、最適な業者を選定できます。これにより、経済的負担を抑えつつ、安全性の高い調査と対策を実施することが可能になるでしょう。
加えて、法人はアスベスト関連の法令や技術の動向を常に最新の状態で把握し、法改正や技術進歩に応じた柔軟かつ計画的な対応を継続的に行う必要があります。安全管理体制の強化は一度の取り組みで完結するものではなく、持続的に改善し続けるべき組織の重要な課題です。適切なリスク管理体制を構築し、関係者との円滑な情報共有やコミュニケーションを図ることで、組織全体の安全意識を高め、より安全な環境を実現しましょう。
以上のように、法人が安全で持続可能な鉄筋コンクリート建築の管理を実現するためには、専門的かつ包括的な調査の実施、計画的な対策の立案、適切な資金計画、そして最新情報の継続的把握と対応が不可欠です。これらを着実に推進することが、企業価値の向上と社会的責任の遂行に直結する重要なポイントであると言えます。