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2025/06/21

アスベスト法令違反の罰則事例5選と企業がとるべき対策!

アスベスト規制の強化と違反時のリスク

アスベスト(石綿)は、20世紀を通じて建築業界や製造業で広く使用されてきた鉱物繊維です。その優れた耐熱性・断熱性・耐薬品性により、吹付け材や保温材、スレート材、パイプカバーなど多くの製品に活用されてきました。しかしながら、アスベスト繊維が肺に取り込まれることで引き起こされる健康被害、特に中皮腫、肺がん、石綿肺などの重大な疾患が大きな社会問題となり、日本では2006年にアスベストを含むすべての製品が全面的に使用禁止となりました。

しかし、アスベストは現在も多くの建築物に「残存」しているのが現実です。特に1980年代以前に建てられた建物では、外壁、天井、内装材の一部に含有している可能性があり、これらの建築物の老朽化や改修・解体工事の際にアスベストが飛散するリスクがとても高くなっています。そのため、アスベストの使用が禁止された現在でも、その「管理」と「除去」が必要とされており、これに対応するための法整備が近年ますます強化されています。

2022年4月、アスベストに関する国内法制のなかでも中核を成す「大気汚染防止法」が改正され、建築物等の解体・改修工事の際、アスベスト含有の有無を事前に調査し、都道府県等の自治体に報告することが義務化されました。この報告義務は、アスベストが含まれていなかった場合でも例外ではなく、アスベストが含まれていないことを証明するための根拠資料や調査記録の提出も必要です。報告を怠る、または虚偽の報告をした場合、最大で50万円以下の過料、さらに自治体による業者名の公表といった行政処分が下されることがあります。

また、アスベスト除去工事に携わる作業者の安全を守る目的で、「労働安全衛生法」も併せて改正されました。この改正では、作業に先立って分析調査・リスクアセスメントの実施を義務付けたほか、除去中には湿潤化処理や負圧除塵装置の使用、保護具の着用などの飛散防止措置を講じることが求められています。これらの措置が適切に行われなかった場合、労働基準監督署が調査に入り、是正命令・作業中止命令、さらには刑事告発に至るケースもあります。

ここで注意すべきは、こうした義務違反の対象は法人だけでなく、実際に管理・指揮をしていた個人にも及ぶという点です。過去の事例では、建設会社の現場代理人や管理職が労働安全衛生法違反により書類送検されています。法人としての体制が整っていても、個人の判断ミスや対応遅れが深刻な処分につながる恐れがあるのです。

さらに、違反が報道機関に取り上げられた場合、罰金以上に企業の社会的信用を失う事態にもなりかねません。行政処分と併せて企業名が公表されることにより、取引先との契約解除、公共工事の入札停止といった連鎖的な損失が発生し、実質的には数百万円〜数千万円規模のダメージを受ける事例も少なくないのです。

企業としては、法令の最低限の要件を満たすだけでなく、社内全体でアスベストに関する危険性への理解を深めることが大切です。また、下請や協力会社にも同様の水準での法令遵守を求め、管理監督責任を果たす姿勢が重要です。

アスベストの規制強化は今後も進むと考えられています。建築物の所有者、元請企業、管理会社などあらゆる立場の法人が、法律違反をしないだけでなく「積極的なリスク対応」をとることが、罰則を回避することのみならず、社会的責任を果たすうえで不可欠ではないでしょうか。

過去に摘発されたアスベスト違反事例5選

アスベスト関連の法令違反は、決して大手企業や特定の業界だけの問題ではありません。中小建設業者から公共事業の受注業者に至るまで、全国各地で実際に違反事例が報告されており、いずれも重大な罰則や行政処分の対象となっています。本章では、報道や行政機関の発表に基づき、代表的な5つの違反事例を紹介します。

事例①無届解体で報告義務違反となった事例(中小建設業者)

神奈川県のある中小建設業者は、築40年以上の木造家屋の解体工事を請け負いました。建物の構造上アスベスト含有建材が使用されている可能性があったにもかかわらず、調査を行った記録が残されておらず、事前報告も行われないまま解体作業を開始しました。近隣住民からの通報を受けた自治体の立ち入り調査により、大気汚染防止法違反が判明しました。

この事例では、行政より30万円の過料が科されたほか、業者名が市のホームページに公表されました。さらに、結果的に同社はその後の入札から外されることとなりました。違反の程度は軽微であっても、報告手続きの不備が重大な罰則対象となることが明確に示されたケースです。

事例②飛散防止措置を怠ったことで停止命令を受けた事例

大阪府内のビル改修現場では、アスベスト除去工事中に湿潤化処理が不十分だったため、作業中に大量の粉じんが飛散しました。現場周辺の事業者から通報が寄せられ、労働基準監督署と環境局が合同で調査に入りました。

調査の結果、飛散防止措置の不履行、養生の不完全、作業員の保護具不使用など、複数の違反が確認され、行政によりただちに作業停止命令が発出されました。その後、元請業者は是正報告書の提出と、全従業員への再教育が義務付けられました。

この事例では、工事が1ヶ月以上中断し、顧客から契約違反を理由に損害賠償請求が提起されました。罰則を超える経済損失が発生した典型例です。

事例③分析調査を省略したことで罰金刑に処された事例

東京都内のマンションリノベーション工事では、管理会社が「築年が新しいためアスベストは含まれていない」と自己判断し、成分分析を行わずに内装解体を進行。ところが作業中に建材が崩れ、作業員の1人が咳と呼吸困難を訴えたことで調査が実施され、吹付け材にクリソタイル(白石綿)が含まれていたことが判明しました。

労働基準監督署は同管理会社と元請を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検し、法人には50万円の罰金が科されました。さらに、施工に関わった現場代理人にも過失があるとして、個人としての責任追及が行われました。

このように、判断ミスや必要な手順の省略が刑事処分にまで発展するリスクがあることを示しています。

事例④元請業者が下請の違反で連帯責任を問われた事例

名古屋市内の工事現場において、元請企業が契約した下請業者が、アスベスト事前調査を行わずに工事を開始。現場には含有建材があったものの、除去処理が行われないまま廃棄されていたことが発覚しました。

行政はまず下請業者に対して処分を行いましたが、さらに元請業者に対しても、「下請業者への監督不十分」を理由に行政指導がなされ、次年度の自治体発注工事の入札停止処分が科されました。

元請が直接作業をしていなくても、監督責任を怠れば法的な責任を問われるという実例です。下請任せでは済まされないことが浮き彫りとなりました。

事例⑤公共施設工事での違反が報道された事例

熊本県の公共施設(学校体育館)の改修工事で、受注業者がアスベストの含有を否定する虚偽の報告書を提出しました。実際には吹付け材にアスベストが含まれており、除去作業中に飛散していたことが後日判明しました。

この事件は新聞・テレビなどで大きく報道され、自治体は契約解除と入札停止処分を即時決定。さらに、発注者である教育委員会が保護者説明会を開く事態となり、地域住民への信頼回復に長い時間を要しました。

本件は、「アスベスト違反によって行政・企業・地域社会すべてに波紋が広がる」ことを象徴する事例であり、レピュテーションリスク(評判損失)の重大性を改めて突きつける結果となりました。

企業が取るべき法令遵守のための対応

アスベストに関する法規制は複雑かつ厳格であり、違反が判明した際には過料を科されるだけではなく、企業としての信頼性や経営継続にも重大な影響を及ぼします。したがって、単に法令を理解しておくだけでは不十分であり、企業として予防的・組織的に対応する体制を整えることが求められます。

この章では、法令遵守のために法人が取るべき対応を、3つの軸に沿って詳しく解説します。

事前調査の外部委託と報告義務の確認方法

アスベスト規制に対応する上で最初に行うべきことは、工事対象の建物にアスベストが使用されている可能性があるかの事前調査です。この調査は、「石綿含有建材調査者」や「建築物石綿含有建材調査マニュアル」に準拠した知識を持つ者が実施する必要があります。

企業が自己判断で「この建物は新しいから大丈夫」「図面に書いてないからアスベストなし」といった勝手な推定をもとに調査を省略すると、後に重大な法令違反となる可能性があります。したがって、信頼できる第三者(分析機関やアスベスト専門会社)へ調査を外部委託する必要があります。

調査後は、たとえ非含有であっても、必ず自治体へ調査結果の報告書を提出する必要があります。この報告は工事の規模に関係なく義務づけられており、書類不備や未提出は過料の対象になります。提出様式は自治体によって異なるため、自治体の最新ガイドラインを確認する体制を整えておくと安心です。

また、報告義務のある調査結果については記録を5年間保存することが原則とされています。工事完了後であっても監査・指摘の対象となることがあるため、社内でのデータ管理体制も不可欠です。

安全管理マニュアルの整備と社内教育の重要性

現場レベルの法令遵守だけでなく、組織全体として法令対応力を高めるには、社内マニュアルを明文化し従業員教育を継続的に行うことが重要です。特に建築・不動産・設備管理部門では、部署ごとに対応の理解度が異なる場合が多く、全社的に足並みを揃える工夫が必要になります。

以下のような具体策を講じることで、属人的対応を防ぎ、制度に準拠した行動が標準化されます。

1. アスベスト工事に関する業務フロー(着工前~完了後)を図式化
2. 各ステップでのチェックリスト化(調査依頼・報告・施工確認など)
3. 新入社員・中途採用者への初期研修プログラムへの組み込み
4. 年1回以上のeラーニングや外部講師による勉強会の実施
5. 関連法令の改正があった際の全社通知ルートの整備

また、下請業者や協力会社にも同様のルールを共有し、元請としての監督責任を明示する契約条項を定めておくことがリスク低減につながります。

万一違反が疑われた場合の社内対応フロー

どれだけ体制を整備していても、人為的ミスや外部からの通報によって違反の疑いが持たれる恐れはあります。そうした場面では、初動の速さと誠実が被害の拡大を防ぐ鍵となります。

以下は、違反の可能性が浮上した際に企業が取るべき基本的なフローです。

1. 内部通報の受付体制を整備(専用窓口・匿名投稿システムなど)
2. 初期対応チームによる事実確認(現場確認・写真撮影・関係者聴取)
3. 速やかに所轄官庁(自治体・労基署)へ自主的な報告・相談を行う
4. 被害が発生した場合、近隣住民・関係会社への説明と謝罪対応を実施
5. 是正措置を講じたうえで、再発防止策を報告書として文書化・提出

特に重要なのは、隠蔽しようとしないことです。行政側も、自主的な申告と改善意欲を持った対応には寛容な姿勢を示す傾向があり、最終的な処分においても罰則が軽減される可能性があります。

企業としての透明性と社会的責任が問われる今、リスクの芽を早期に摘み取る仕組みと姿勢こそが、罰則リスクの最小化と企業イメージの維持に直結するといえるでしょう。

罰則事例から学ぶ、アスベスト対応の本質

ここまで、アスベストに関する法規制の概要、違反事例、企業として取るべき対応について具体的に解説してきました。これらの情報から導かれる最大の教訓は、アスベスト対応がもはや一部の専門業者だけに関わる問題ではなく、建物を所有・管理・施工するすべての法人にとって不可避の法的責任となっているという点です。

違反事例からも分かるように、報告手続きの不備、調査の未実施、飛散防止措置の不備など、どれも「確認を怠った」「判断を誤った」「下請けに任せきりだった」といった日常的な油断や対応の甘さから生じています。そして、それらのミスは決して小さなペナルティだけにとどまりません。行政処分、過料、企業名の公表、入札停止、顧客離れ、そして社会的信用の喪失 -こうした影響は経営そのものを揺るがす重大リスクに発展します。

また、アスベスト対応の法令は年々強化されており、建材や作業の対象範囲、調査・報告手続きの内容もアップデートされています。つまり、「以前は大丈夫だったから今回も大丈夫」という思考は通用しません。継続的な制度理解と、変化にすぐ対応できる柔軟な社内体制が、今後ますます求められていくでしょう。

そしてもう一つ重要なことは、信頼できる専門業者との連携です。アスベスト調査や除去工事には高度な技術・知識・法令理解が求められるため、価格や対応納期だけで選定すると、後に大きなトラブルを引き起こす恐れがあります。専門業者の選定にあたっては、過去の対応実績、自治体報告のサポート体制、第三者機関による認証の有無など、総合的に判断することが不可欠です。

本記事で紹介した事例や対応策を参考に、ぜひ社内での教育・体制整備、業者選定プロセスの見直しを進めてください。アスベスト対応は単なる「義務」ではなく、社会的責任を果たすための信頼づくりそのものです。違反を避けるためだけの対策から一歩進み、関係者との信頼構築を目指した“攻めのコンプライアンス”に転換することが、企業の長期的な成長と社会的価値の向上につながるでしょう。

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