2025/06/21
アスベスト断熱材のリスク評価から調査・除去まで完全ガイド

使用されていた時期と法規制の変遷
アスベスト断熱材の使用時期と法規制の変化を正確に理解することは、建物リスク評価に不可欠です。使用期間と規制の流れを照らし、リスクの高い建物を見極める材料としてください。
使用が広がった時代と背景
アスベスト断熱材は、1960年代から1990年代にかけての高度経済成長期に広く使用されました。特に、熱源設備を備えた工場や、商業施設、オフィスビル、さらには集合住宅や公共施設など、さまざまな建物で採用されました。これらの建物では、断熱性や耐火性が重視されていたため、アスベストは性能面で非常に優れた理想的な素材として高く評価されていたのです。
法規制の変遷と主な転換点
アスベスト規制は段階的に強化されてきました。
・ 1995年:吹付けアスベスト禁止
・ 2004年:多くのアスベスト含有建材を規制対象に追加
・ 2006年:ほぼすべてのアスベスト含有建材の製造・使用禁止
移行期間のため、2004〜2006年に建てられた建物は在庫品使用のリスクがあります。
調査義務と建物管理への影響
2022年の大気汚染防止法改正により、解体・改修時はアスベスト有無に関係なく事前調査と自治体報告が義務化されました。違反は行政処分や罰金、信用失墜を招くため、2006年以前の建物や施工記録不明物件は優先的に調査すべきです。
断熱材にアスベストが含まれている可能性のあるケース
断熱材にアスベストが含まれているかは、築年数、用途、施工箇所など複数要素で判断します。法人は所有建物のリスクを把握し、調査の優先順位をつけましょう。
築年と使用傾向から判断する
2006年以前の建築・改修物件はアスベスト含有の可能性が高く、調査優先対象です。特に1970〜1990年代の工場や商業施設は断熱・耐火性重視で多用されていることを考慮しましょう。
築年だけでなく、使用用途や規模もリスクに影響します。中でもボイラー設備や熱交換装置、高温配管の多い施設は特に注意が必要です。
施工箇所による判断ポイント
アスベストを含む断熱材は、特定の施工箇所に多く使用されていました。代表的な例としては、折板屋根の裏側空間や煙突・煙道の周辺、ボイラー室や蒸気配管の断熱被覆、さらには高温機械設備の周囲や耐火壁などが挙げられます。これらの箇所は構造上、普段の点検や目視による確認が難しい場合が多いため、建物全体の構造や設備配置を把握したうえで、調査範囲を的確に設定し、専門的な調査を実施することがふさわしいでしょう。
記録不備や外観での判断が難しいケース
経年物件は施工記録や建材リストが残らず、製品ラベルや図面が実際の素材と一致しない場合もあります。そのため、外観や記録に頼らず現場での調査判断が重要となります。
アスベスト含有断熱材の見分け方と調査方法
アスベスト含有の断熱材かどうかは、図面や資料確認だけでなく、専門機関の現地調査と分析が必要です。法人が行う判断手順を3段階で説明します。
第1段階:事前情報からの確認
まず以下の書類・情報を確認します。
・ 設計図書(仕上表・建材一覧)
・ 建材納品書・型番・品番
・ ラベルや製品名の記載
これらを基に国土交通省の石綿含有建材データベースでアスベスト含有の可能性を把握します。
第2段階:専門業者による現地調査
情報不足や現物判断困難な場合、資格保持者(建築物石綿含有建材調査者)による現地調査(採取~分析)が必要です。主な分析方法を紹介します。
1. 偏光顕微鏡法(PLM)
光学顕微鏡を用いて、繊維の形態・色・複屈折・屈折率・消光方向などの特性を観察し、アスベストかどうかを判断します。定量時は視野内のアスベストの割合を算出します。
2. X線回析分析法(XRD)
試料にX線を照射し、得られる回折パターンを分析することで、アスベストの結晶構造を特定します。定量分析では、そのパターンからアスベストの含有量を測定します。
3. 位相差分散顕微鏡法(補完的手法)
通常の光学顕微鏡では見えにくい繊維も、位相差と分散染色の技術により視認性を高めて観察でき、PLMの補完として利用されます。
4. 電子顕微鏡法(TEMまたはSEM)
透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、数ナノメートルの微細な繊維構造を高解像度で観察。PLMやXRDでは識別困難な場合の補完手法です。
第3段階:調査結果の活用と対応
調査結果は法令対応やリスク管理に活用されます。主に以下のような流れになります。
・ 調査報告書の保管と社内共有
・ 自治体への報告(大気汚染防止法基づく)
・ 除去・封じ込め・囲い込みなど処理方法選定
・ 関連工事への反映と安全計画策定
法人がとるべき対応とリスクマネジメント
アスベスト含有断熱材を使った建物を所有する法人は、リスクを把握し迅速に対応する必要があります。法令遵守や労働安全、企業価値維持のため計画的なリスク管理が必要となります。
法改正と調査義務の明文化
2022年の大気汚染防止法改正により、解体・改修工事の際はアスベストの有無にかかわらず事前調査と自治体報告が義務となりました。
調査は国の資格を持つ「建築物石綿含有建材調査者」が行い、怠ったり虚偽報告は主として以下のリスクを招きます。
・ 行政処分(改善命令、停止命令等)
・ 刑事罰や罰金
・ 企業信用の失墜やメディア報道の影響
法人がとるべき具体的な5つのステップ
企業が進める際の手順は以下の5つです。
1. 建物の棚卸しとリスク把握:築年数・用途・改修履歴を整理
2. 優先順位設定:高温設備がある古い建物を優先調査
3. 専門調査業者選定と調査実施:資格保持者による現地調査と分析
4. 調査結果報告と記録保管:自治体報告義務の履行と社内管理
5. 除去・囲い込み等の対応と計画策定:安全管理体制を整え飛散防止を徹底
社内体制とガバナンスの強化
単発調査で終わらせず、継続的な管理体制が重要です。以下を推奨します。
・ 法務部門・施設管理部門の連携構築
・ 調査結果や対応履歴の文書化と共有フロー整備
・ 定期見直しやチェックリスト運用
これにより緊急対応が円滑になり、労災・訴訟・行政指導リスクを減らせます。
まとめ アスベスト調査で安全と信頼を守るために
アスベスト断熱材はかつて高評価でしたが、今なお健康被害と法的責任を引き起こす恐れがあります。法人は管理建物の安全確認と必要な調査・対応を行い、経営の安定と信頼維持につなげるべきでしょう。
なぜ今、アスベスト断熱材に向き合うべきか
・ 法改正により調査と報告が義務化された
・ 2006年以前の建物には残存の可能性が高い
・ 違反時は社会的信用や業績に大きなダメージ
アスベスト対策は企業価値への投資
対策は一時的な費用ではなく、長期的なメリットがあります。
・ 法令違反リスクの回避
・ 従業員・顧客・近隣への安全配慮
・ CSR対応と企業ブランディング強化
・ 将来の設備更新・解体費用削減
支出ではなく「企業価値を守る投資」と位置付けましょう。
最初に取り組むべきことは?
最初の一歩として、まず取り組むべきは、所有する建物の築年や改修履歴などの基本情報を整理することです。そのうえで、アスベスト含有の可能性が高い主要な建物については、専門業者に調査を依頼し、見積もりを取得しましょう。あわせて、社内での管理ルールを整備し、関係者への教育を実施することも重要です。こうした初動対応を早期に進めることが、企業の信頼を守り、将来のリスクを未然に防ぐ大きな力になります。リスクを放置せず、着実な管理体制の構築を目指しましょう。