2025/06/19
アスベスト含有サイディングの見分け方と法人がとるべき対策

サイディングとアスベストの基礎知識
サイディング材とは、建物の外装に広く用いられる建材の一つです。しかし1970年代から2000年代初頭にかけて、一部のサイディング材にアスベストが含まれていたことがあり、現在でもリスク管理上の重要な検討項目となっています。今回は、建材の基礎知識とアスベストとの関係をしっかり整理し、注意すべき視点を解説していきたいと思います。
サイディング材とは?主な種類と特徴
サイディングとは、建物の外壁仕上げに使われるパネル型の外装材です。施工性とコスト効率の良さから主に日本国内の住宅・非住宅建築で多く使われています。サイディング材は大きく以下の4つの種類に分類することができます。
・ 窯業系サイディング(セメント系):耐火性が高く、90年代以降の住宅で主流
・ 金属系サイディング(アルミ・ガルバリウム鋼板等):軽量で断熱材を一体成形したものが多い
・ 樹脂系サイディング:主に米国で普及、日本では少数
・ 木質系サイディング:意匠性重視、耐火基準を満たすには処理が必要
この4つの種類のうち最も注意すべきは「窯業系サイディング」です。実は、セメント系の素材に強度と耐久性を持たせるという目的で、1970~2004年頃までアスベストが混入されていた製品が流通していたのです。法人としては、使用されているサイディングの種類と施工年代に注視しましょう。
なぜアスベストが建材に使われたのか?
アスベスト(石綿)は、耐熱性、耐摩耗性、絶縁性に優れた繊維状鉱物です。実は、20世紀後半の建築業界で「万能素材」として重宝されていました。サイディングにおいては、以下の大きく3つの理由で広く使用されていました。
理由1:セメントに混入することで強度が向上し、ひび割れや曲げに強くなるから
理由2:耐火建築物の外壁材として火災対策にも寄与するから
理由3:材料コストが安価で加工しやすく、量産性に優れていたから
当時の法規制ではアスベストの使用に制限がありませんでした。ですので、多くの大手建材メーカーがこれを添加したサイディングを製造・販売していました。
しかし、アスベスト繊維の吸入が中皮腫や肺がんなどの健康被害を引き起こすことが社会問題化し、段階的な法的規制が進められました。現在では、健康や環境リスクの観点から完全に使用が禁止されているのです。
法人が把握すべきアスベストの基本リスク
法人が建物を所有・管理する場合、アスベストの存在は単なる構造上の問題ではなく、法的責任と労働安全リスクに直結します。特に以下のリスクを認識しておきましょう。
・ 解体・改修時にアスベストが飛散し、作業員や近隣住民への健康被害をもたらす可能性
・ 労働安全衛生法などに基づく事前調査義務を怠った場合の行政指導・罰則リスク
・ アスベスト除去工事のために必要な費用負担や工期の増大
・ CSR(企業の社会的責任)や風評リスクによる企業イメージの毀損
とくに築年数が1970年代~2006年頃の建物については、サイディングのアスベスト含有の可能性がかなり高く、改修や売却、また建替えなどのタイミングで問題が顕在化することがあります。
法人としては、社有建物の施工時期・仕入れ建材・保守履歴を定期的に洗い出し、専門調査を計画的に進める体制を構築することが求められるのです。
アスベスト含有サイディングの使用年代とその背景
アスベストがサイディングに使用されていた時期や背景を正しく理解することは、法人が所有する建物のリスク評価や工事計画を立てるうえで重要です。それでは、アスベスト含有サイディングの使用時期、規制の変遷、そして在庫材によるリスクの残存状況について詳しく解説します。
使用開始と普及の経緯(1970年代〜)
日本でアスベストがサイディング材に使用されるようになったのは、1970年代前半からとされています。特に窯業系サイディングでは、耐火性・加工性を向上させる目的でアスベストが混入されており、セメント系建材との相性の良さから、広く普及していきました。
この時期は高度経済成長期に重なっています。ですので、住宅・オフィス・工場などの建設ラッシュが進行しており、量産・短工期・低コストが求められました。アスベストはまさにそれらの条件に応える素材であり、多くの建材メーカーが積極的に使用していたのです。
法人が保有する建物においても、1970年代から1990年代後半にかけて施工された物件では、アスベストを含む外壁材が用いられている可能性が非常に高いといえます。
規制・禁止の転換点(2004〜2006年)
アスベストに関する規制は、2000年代に入って本格化します。2004年には「労働安全衛生法施行令の一部改正」により、アスベスト含有率が1%超の建材の製造・使用が禁止されました。さらに2006年には、この基準が0.1%超に引き下げられ、実質的に全面禁止となっています。
この2004年〜2006年の2年間が、アスベスト含有サイディングにおける“規制の分岐点”です。法規制に対応するため、多くの建材メーカーがこのタイミングで「アスベストフリー製品」への切り替えを行いました。
しかし、注意すべきことは、この移行が一律に実施されたわけではないという点です。特に中小メーカーや地域の建材流通業者の間では、在庫品を2006年以降も使用していた事例が一部確認されているのです。
規制以降も残る在庫使用のリスク
2006年以降に新築・改修された建物であっても、アスベスト含有サイディングが使われている可能性は完全には否定することはできません。これは、建材の供給体制が全国で一律でなかったこと、そして建材が現場に届くまでに「製造」「流通」「保管」「施工」と複数のプロセスを経たためです。
一方、地方においては、コスト削減や在庫処分の観点から、規制前に製造された製品を2006年以降に施工に使っていたケースも実はありました。法人がこうした物件を所有している場合、築年数だけではリスク判断が難しくなるのが現実です。
よって、建物のアスベストリスクを判断する際は、単に「建築年」だけで判断するのではなく、以下のような複合的な確認が求められます。
・ サイディングの型番・製品名・ラベル情報の確認
・ 当時の施工業者・流通業者の履歴チェック
・ 改修記録・仕入れ伝票・建材カタログの調査
・ 必要に応じた専門業者によるサンプリング分析
使用年代からアスベスト含有を見分ける方法
アスベスト含有の有無は、目視では判断が非常に難しいです。しかし、建築年や建材情報、データベースなどからある程度の推測することができます。法人として改修・解体を予定している建物にリスクがあるかどうかを事前に把握することは、コストや法令対応、また安全管理すべてにおいて重要な判断材料となります。
それでは、実務上の判断に使える3つの方法を紹介します。
建築・改修年から判断する基準
まず初期判断の軸となるのが「建築年または外壁改修年」です。以下の基準が参考になりますのでぜひ確認してみたください。
■2006年以降に新築または外壁全面改修された建物:
→ 原則としてアスベスト含有建材は使用されていない
■2004年以前に新築または外壁リフォームされた建物:
→ 高い確率でアスベストを含む建材が使用されている可能性あり
■2004年~2006年の施工:
→ 在庫材や施工現場の判断により混入リスクが残る
この判断はあくまで「目安」です。調達元や施工事業者の対応方針により例外が発生することもあります。社内で施工年の記録や改修履歴がある場合は、まずそこから確認を始めましょう。
自社で確認すべき資料としては、建物台帳や工事履歴書、建築確認通知書、竣工図書、改修報告書などが挙げられます。
製品ラベル・型番情報のチェック
次に確認すべきことは「実際に使用された建材の型番やラベル情報」です。建物の裏側や軒下などに製品プレートが残っていることがあります。また、保管されている工事報告書や仕入れ伝票から建材メーカーと製品名が分かるケースもあります。
主要メーカーの一部では、過去の製品におけるアスベスト使用の有無を公式に公開していて、型番によって判断可能な場合もあります。たとえば、「AF(Asbestos Free)」と記載された製品は非含有である可能性が高かったり、型番や製品コードから製造年を特定し、該当期間との照合が可能だったりします。
自社で確認すべき情報:
・ 使用建材の品番シール
・ 保管している工事資料や納品書
・ メーカーに直接照会するための製品情報
石綿含有建材データベースの活用法
国土交通省と厚生労働省が整備している「石綿含有建材データベース」は、アスベストの有無を確認するための公的ツールとして非常に有効です。石綿含有建材データベースは、建材の製品名や型番を入力することで、アスベストの含有有無を確認できる公的なツールです。このデータベースには、サイディング材、けい酸カルシウム板、成型建材など、さまざまな種類の建材が網羅されています。さらに、無料で一般公開されており、改修や解体前の事前調査において、非常に有用な参考資料として活用することができます。特に製品名が特定できた場合は、調査会社への依頼前に該当建材がアスベスト含有か否かを事前に把握できる点でメリットがあります。
データベース活用のステップ:
・ 建材の製品名・メーカー名を確認
・ 石綿含有建材データベースにアクセス
・ キーワードを入力して検索
・ 「含有」「非含有」「不明」のいずれかで判定
アスベストがもたらすリスクと企業責任
アスベスト問題は、単なる建材の老朽化や解体作業の技術課題にとどまらず、法人にとって重大な法的・健康的リスクを伴ってしまいます。とくに改修・解体工事を予定する法人においては、事前調査・法令順守・労務管理の観点から総合的な対策が重要です。
それでは、健康への影響と企業が直面する法的責任について整理します。
アスベスト吸引による疾患リスク
アスベストを長期にわたって吸引することで、以下のような重篤な健康障害を引き起こすことが明らかになっています。
・ 中皮腫:胸膜や腹膜に発症する悪性腫瘍。アスベスト曝露から3~40年の潜伏期間を経て発症する
・ 肺がん:吸入した繊維が肺細胞を変異させることで引き起こされる
・ アスベスト肺(石綿肺):肺組織が繊維化し、慢性的な呼吸困難を伴う
しかもこれらの疾患は、発症してからの治療が非常に困難なのです。事実、厚生労働省の統計でも毎年2,000件を超える労災認定事例が報告されています。万が一法人が自社の施設でアスベストを原因とする労災が発生してしまった場合、その社会的・経済的責任は極めて重大です。
労働安全衛生法など法的責任の基礎
法人がとるべき基本姿勢は「法令順守に基づく予防管理の徹底」です。日本国内における主要な法制度は次の通りです。
・ 労働安全衛生法
→ 解体・改修前の事前調査義務/作業環境測定/作業主任者の配置
・ 大気汚染防止法
→ 石綿の飛散防止措置/作業届の提出義務
・ 建築基準法
→ 新築・増改築における石綿使用の制限
・ 廃棄物処理法
→ アスベストを含む建材は「特別管理産業廃棄物」として厳重処理が必要
とくに重要なのは、「調査義務違反」によって罰則が科されるリスクです。なんと、調査を怠ったまま工事に着手した法人には、労働局からの行政指導や50万円以下の罰金が課されることがあるのです。さらに、下請業者に委託していたとしても、元請法人には最終責任が及び、損害賠償責任を問われることがあります。
社内管理体制と労災防止のポイント
法令を遵守するためには、単発的な対応ではなく、組織的でかつ継続的な管理体制の構築が非常に重要です。以下は法人が検討すべき実務的対応です:
・ 所有物件ごとの築年・施工履歴のリスト化
・ 外壁建材・天井材の型番やメーカー情報の管理台帳整備
・ アスベスト調査を工事発注フローに組み込むルール化
・ 労働安全衛生教育の定期実施(外注業者含む)
・ アスベスト対策費用の予算計上とリスクマネジメント体制の構築
また、改修・解体を予定している現場においては、社内の建物管理部門・法務部門・経営層などが連携して、調査や対応の意思決定を行う仕組みが良いでしょう。通報制度や安全監査体制を強化することで、将来的な訴訟や行政対応のリスクを抑えることができます。
法人がとるべき対応と調査の流れ
アスベストに関するリスクを未然に防ぐためには、法人が主体となって調査と対応の体制を整えることが不可欠です。建物の所有者としての責任を果たすためには、制度に準拠した調査体制の構築と、的確な判断フローが求められます。
ここでは、アスベストの可能性がある建物に対して法人がとるべき実務的なステップを紹介します。
アスベスト調査の依頼タイミングと流れ
アスベスト調査は、原則として以下のような状況に該当する際に必須となります:
・ 改修・解体・外壁改修・用途変更などの建築工事を計画している
・ 1970〜2006年頃に建てられた建物を所有している
・ 外壁材・建材の仕様が不明確で、竣工図面や記録が見つからない
調査の一般的な流れは以下の通りです:
・ 所有建物の築年・施工内容の確認(建物台帳・図面の収集)
・ 施工業者または調査会社に相談し、予備診断を受ける
・ 必要に応じて現地で建材のサンプリング調査を実施
・ 公的分析機関または専門業者によるアスベスト分析
・ 結果報告と、必要な対策(除去・封じ込めなど)の検討
特に工事着工前には余裕をもって調査を依頼し、必要に応じて行政への届出・業者手配などの手配を進める必要があります。
調査は建築士事務所、環境分析業者、産業廃棄物業者などが対応可能であり、石綿作業主任者や分析技能者が在籍しているかを確認することが重要です。
調査結果に応じた対応方針の立て方
調査結果によってアスベストが含まれていることが判明した場合、法人として以下の選択肢から対応を検討する必要があります:
・ 除去:完全撤去。行政届出・専門業者による飛散防止措置が必要
・ 封じ込め:建材を囲って飛散を防止。短期間での対応が可能
・ 囲い込み:二重構造で覆う方法。主に改修が難しい箇所に適用
除去を行う場合、都道府県・政令指定都市への「作業届出」が必要です。これは工事の14日前までに提出しなければならず、工期に大きく影響するため早期判断が重要です。
また、アスベストを含む建材は特別管理産業廃棄物に分類され、適切な中間処理施設を経て最終処分する必要があります。この処理費用も予算に含めておくことが求められます。